【マップレビュー#3】 “アリゾナ” —歴史とハイテク産業が混在する灼熱の大地【アメリカントラックシミュレーター】

グーグルマップでアメリカを眺めていると、グレーの斜線で分けられた“〇〇ネイション・リザベーション”と呼ばれるエリアがあちこちに点在しているのが確認できます。

“〇〇ネイション”とは、アメリカ建国のはるか昔からこの地で生活してきた先住民族の集団を意味する呼称で、その部族の先住権や自治権を連邦政府が専有的に認めているエリアを“リザベーション(保留地)”と呼びます。

これまでアメリカントラックシミュレーターのマップを紹介しながら触れてきたアメリカの歴史は、西洋から来た入植者側の視点ばかりでした。

しかし合衆国の歴史を語るのならば、入植者がやってくる前からこの地で暮らしていた先住民族—“アメリカン・インディアン”1の存在を欠かすことは出来ません。今回はアリゾナ州のマップレビューを土台に、アメリカン・インディアンとアメリカ社会のかかわりを軸とした記事内容としました。

というのも、今回取り上げるアリゾナ州には保留地面積全米1位のナバホリザベーション(約7万㎢≒東北6県の合計面積)や2位のトーホノーオータムリザベーション(約1.1万㎢≒大阪 京都 奈良の合計面積)をはじめとして、全米で最も多くのリザベーションが存在します。つまりアリゾナ州を知ることはアメリカとその大地の歴史そのものへの理解を深めることにつながるのです。

アメリカントラックシミュレーターのソフト本体に同梱されている州のひとつで、先住民族の長い歴史と最先端産業が活気づく“アリゾナ州”をじっくり見ていきましょう。

先住民の教えなくして生きていけなかった入植者達

ハロウィーンといえばカボチャのジャックオーランタンが欠かせませんが、発祥の地アイルランドのケルト人は本来カボチャではなくカブを使っていました。これはアイルランドからアメリカにやってきた入植者がカブのかわりにカボチャを使ったことで変化したとされていますが、なぜカボチャに置き換わったのでしょうか。

グランドキャニオン。アメリカンインディアンにとっては巡礼の地として崇められてきた神聖な場所。

アメリカにやってきた入植者達は獣を狩るような能力には長けていましたが、現地の気候や土壌に適した耕作の知識はありません。持続的な食糧自給が出来ない彼らが頼りにしたのが先住民族であるアメリカン・インディアンでした。

アメリカン・インディアン達は、カボチャ・マメ・トウモロコシを“スリーシスターズ”と呼んでいました。これら3品目はお互いの存在を補完し合いながら成長するうえ、栄養価のバランスも優れていたことから特に重要な食糧源として扱われていたのです。入植者たちの食生活へこれらの作物が深く関わっていく過程でジャックオーランタンがカブからカボチャに置き換わったことは自然な流れでした。

・マメは空気中の窒素を栄養にできるので土壌が肥える
・トウモロコシはマメのツルが絡むための支柱となる
・カボチャは地面を覆うように葉を広げるので雑草と乾燥を防ぐカバークロップの役割を果たす

インディアンの知恵”スリーシスターズ”文化への影響

・カボチャ(ビタミン・食物繊維が豊富)
・ジャックオーランタンがカブからカボチャに変わる
・感謝祭で振る舞われるパンプキンパイは先住民への感謝を意味する2

・マメ(ミネラル・植物性タンパク質が豊富)
・カウボーイの3B=”Beef”(牛) “Bean”(マメ) “Bread”(パン)のひとつに数えられるほど食文化に定着する(ちなみにこのBreadはコーンブレッド=トウモロコシで作られたパン)

・トウモロコシ(炭水化物が豊富)
・アメリカを代表する酒であるバーボンはトウモロコシが主原料
・アメリカ発のシリアルであるコーンフレークはトウモロコシが主原料
・ポップコーンは硬いトウモロコシを加熱膨張して食べていた先住民の調理法に由来

なかでもトウモロコシはアメリカ人が特に好む穀物で、朝食にはコーンフレークを、映画館でポップコーンを、酒はコーンが主原料のバーボンをたしなむことからもその存在感は飛びぬけています。

西部に大きな保留地が多い理由

ホルブルックにある”ウィグワム・モーテル”。ウィグワム(本来この形はティピー型テントと呼ぶのが正しい)と呼ばれるインディアンの住居を模した宿泊施設で、国家歴史登録財に指定されている。

先住民と入植者の間で決定的に違っていた価値観が土地の領有権でした。アリゾナ一帯で生活するプエブロ族の伝承によれば、人は父なる太陽と母なる大地から生まれた存在であり、土地を自分のものにするという考え方がそもそも無かったのです。

アメリカが東から西へ国土を広げていった経緯は以前インターステートの記事でも触れましたが、領土が広がるたびに先住民は西への強制移住を強いられてきました。中でも南東部で生活していたチェロキー族をはじめとした5部族約6万人の強制移住は悲惨を極め、道中で行き倒れた死体を抱えながらの行進は“涙の旅路”と呼ばれる合衆国負の歴史となっています。

米墨戦争の勝利で領土の拡大が太平洋まで達すると、先住民を西へ強制移住させるというやり方が出来なくなります。そこへゴールドラッシュで白人たちも西へ押し寄せたので、先住民と白人の争いはますます激しくなっていきました。アリゾナは別名“カッパーステート(銅の州)”と呼ばれるほど銅が掘れたので、先住民と採掘者のあいだで土地や資源の奪い合いが起こるようになります。

Steamの実績”Copper States”。アリゾナで12都市を訪れると解除される。
ホルブルックのナバホ・ブルバード沿いにある”パウワウ・トレーディングポスト”(ゲーム内ではワウハウになっている)。伝統的なアメリカン・インディアンの装飾品などを扱う土産物店。

そこで連邦政府は19世紀中ごろに“保留地政策”を打ち出します。これは先住民の権利が約束されたエリアを連邦政府が認定・保障するという、聞こえこそ良い政策なのですが、その実態は白人側の需要にあわない痩せた土地における人種隔離と監視をかねたアメリカン・インディアン経済包囲網にすぎず、結果として貧困にあえぐ先住民が続出することとなり、その影響は現在にまで続いています。

ハイテク産業の巨大工場がひしめくアリゾナ

アメリカン・インディアンの歴史が存在する側で、アリゾナには世界的なハイテク企業の工場が数多く存在しています。その背景には温暖で安定した気候による自然災害の少なさと脱炭素な太陽光発電の安定供給などがあげられますが、特に一部の産業—軍事関連企業にとってはアメリカ軍の広大な試験場―“ユマ試験場”の存在が深く関係しています。

画像右下の看板”YPG(ユマ試験場)”のロゴには極限条件の3つ(寒冷・熱帯・砂漠)がイラストで並んでいる。

ユマ試験場の場所。ユマから国道95号を北上する途中(上画像青矢印あたり)にある

ユマ試験場では、兵器に求められる4つの極限条件下(寒冷・熱帯・砂漠・高高度)での性能のうち3つがテストできるため、ほぼすべての米軍装備がここで試験を受けて実戦に備えています。そのため近隣にはレイセオンやBAEシステムズといった軍事産業の有名企業が研究拠点を構え、他にもボーイング、インテル、TSMCといった先端産業の工場が集中していることから、アリゾナは“シリコン・デザート”とも呼ばれています。

アリゾナ州でオススメの仕事

アリゾナの名産品”5C”を運ぶ

アリゾナの”5C”関連する積荷使用するトレーラー
Copper(銅)鉱山での仕事全般ローボーイ等多数
Cattle(牛)畜牛ライブストック
Citrus(柑橘)レモネードコンテナキャリア
Cotton(綿花)コットンリンター、綿花収穫機フラットベッド、ローボーイ
Climate(気候)もう積んでます全部

なんかいろいろ雑すぎる点は目を瞑っていただくとして、アリゾナで仕事を請けるならぜひこれらの有名な特産品“5C”を運んでみてはいかがでしょうか。特にオススメなのが綿花に関係する積荷です。アリゾナはClimate(気候)が5Cのひとつに数えられるほど恵まれていますが、おかげで雨風が少なく綿花への悪影響が小さいので、高品質なコットンが収穫できるのです。

コットンリンター。フラットベッドで運べます。

コットンリンターとは綿花の種の周りについている短い毛状の繊維で、身近なものだと不織布マスクの原料などに利用されています。アリゾナ産のコットンを直接運ぶことのできる積荷なのでオススメです。

綿花収穫機

綿花収穫機はとても巨大な重量貨物です。自前のトレーラーを使いたい方はこちらの記事を参考にローボーイの構成を決めてみてください。

国境沿いの町からメイドインアメリカ…?な”自動車部品”を運ぶ

インテルやボーイング、TSMCなどの最先端産業が工場を構えていることから”シリコンデザート”とも呼ばれるアリゾナですが、一部の大企業がこの地を選ぶ理由のひとつに、隣国メキシコ領内の国境沿いに“マキラドーラ”と呼ばれる工場群が存在している点も大きく影響しています。

メキシコ国境に面するアリゾナ南端の町ノガレス。メキシコへの道を示す看板が見える。

先端産業が扱う製品はとてつもない数の部品で構成されており、その一部はアメリカで製造されたのちメキシコに送られ、低賃金で働くメキシコの労働者によって組み立てられます。こうして人件費を抑えまくった組立品は再びアメリカに送られて、”メイドインアメリカ”の完成品に利用されます。この”マキラドーラ・スキーム”の恩恵を長年受けてきたのが先端産業や自動車産業で、特にアメ車はマキラドーラで作られた部品なくして成り立ちません。

国境沿いの町ノガレスにある自動車部品店”APADE”。いま運んでいる自動車部品はメイドインどこでしょうか。

2025年8月現在、メキシコとは関税で大揉めしているためこのスキームが今後どうなるのかわかりませんが、朝令暮改の関税関連のラジオニュースを流しつつ、「え、これほんとにメイドインアメリカでいいの?」とモヤモヤしながら国境沿いの町から自動車部品を運べば、自分がグローバリゼーションの最前線を走っているような気分になれることは間違いないでしょう。まあほら、こういうのってどの国も結構やってたりしますから、ね。

“アリゾナ州” まとめ

カッパーステートカリフォルニアは金、ネバダは銀、アリゾナは”銅の州”
○○ネイション部族が自らの存在を国家になぞらえて帰属意識を強調する際に用いる言葉
リザベーションインディアンの保留地。税制などが州法とは違う場合が多い
グランドキャニオンインディアンにとっては神聖な巡礼の地
スリーシスターズアメリカン・インディアンにおけるカボチャ・マメ・トウモロコシの呼び名
涙の旅路先住民を西へ強制移住させ続けた負の歴史
保留地政策先住民の権利を連邦政府が保障する一方で、先住民の行動を制限し監視する意図もあった
ユマ試験場米軍のほぼすべての装備品がここで試験される
アリゾナの”5C”Copper(銅)、Cattle(牛)、Citrus(柑橘)、Cotton(綿花)、Climate(気候)
シリコンデザート最先端産業の工場が多数存在するアリゾナの別名
マキラドーラメキシコ領内の米国境線沿いに建てられた工場群

アメリカン・インディアンの長い歴史とハイテク産業の巨大工場がひしめくアリゾナは、アメリカ社会を凝縮したような存在感にあふれています。アメリカントラックシミュレーターでソフト本体に含まれている3州のうちのひとつ、アリゾナ州の魅力が少しでもみなさんに伝われば幸いです。

  1. 近年ではインディアンという呼称が差別的な意味を含むとして”ネイティブ・アメリカン”という呼び方に代替しようとする動きが広まりつつありますが、このサイトでは(1)アメリカの歴史上、移民や有色人種を排斥する愛国的運動—ネイティビズム—の中で”ネイティブ・アメリカン”という言葉は排外主義を掲げる集団側が用いてきた経緯がある点、(2)今回の記事を作成する際参考としたアメリカ政府国勢調査局をはじめとした公的機関も”American Indian”という呼称を用いている点—以上2点をふまえて、一切の差別的意図が無いことを前提にアメリカン・インディアンという呼称を用いています。 ↩︎
  2. ハロウィーンと感謝祭は別の祭事です。 ↩︎

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